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会社経営者を顧客化するまでの大変さ
入社2年目か3年目の時、株取引をメインとして売買してくれるお客さんを作ることができました。
投資家の多くはネット証券で株取り引きをするので、 対面証券会社での証券マンにとって株での手数料を稼ぐことは大変です。
なので株の取り引きをするお客様はとても貴重な存在でした。
何度訪問してもなかなか取引してもらえない
会社経営をしている60代男性のIさんは、他の証券会社とも取引をしていて、若造の僕なんかの話はあまり聞いてもらえませんでした。
Iさんを顧客化できたのはテレアポがきっかけで、その時に少し株に興味を示していて後日訪問したことでした。
一度の訪問ですぐに買ってもらうということはどのお客さんでも少ないですが、とりわけIさんに関しては大変な思いをして、何度も訪問し注目銘柄などを伝えたりして親交を深めていきました。
Iさんは、上下値動きが激しい銘柄が好きな様子で、半分娯楽目的で株取引をしていました。
なので僕は当時新興市場で話題になっていて株価が動いている銘柄を勧めていました。
「今は取引はしてもらえなくても、いつかは取引をしてもらえる」そう思い、粘って訪問を続けていました。
訪問の際には何とか自分に興味を持ってもらおうと必死でした。
とあるゲーム株をきっかけに少しづつ接し方に変化が
そうするうちにタイミング良く、とあるゲーム株が大変な出来高を伴い暴騰していきました。
僕は早速このゲーム銘柄の話を持ち出し「僕のところで口座を開いて買ってください!」と頼みましたが、この時はまだ聞き入れてもらえませんでした。
そのゲーム株の株価は勧めた時より10倍以上になり、この事をきっかけにIさんの僕への接し方が少しずつ変わってきました。
その後、訪問すると「お前の顔見るとあの株思い出すんだよ~、今度はなんか面白い株はないのか」などと言って頂けるようになりました。
後日談ではそのゲーム株を買わなかったことをとても後悔したとのことでした。
次第にIさんは僕のことを可愛がってくれていると実感して来ました。
若造の僕に、他証券会社から勧められている銘柄を教えてくれるようになり「こういう株をお前も言ってこないとダメだろ」などと言ってもらえるようになりました。
やっとの思いで口座開設
その後、ある仕手株と噂されている銘柄が活発な動きを見せていました。
今度こそ機を逃すまいと頭を下げて、なんとか口座開設をしてもらうことができました。
大変な苦労を重ねての顧客化だったので、何物にも代えがたい喜びを感じました。
口座開設から買い付けのタイミングが遅くなったことが命取りに
口座開設に数日を要してしまうことや入金の際に銀行に行くことなどが理由で、買って欲しいタイミングから少し時間が掛かってしまっていました。
「タイミング的にはかなり上の方まで来てしまっているんじゃないか」と思いながらも買ってもらいたい気持ちが勝り、その思いには目をつぶって買ってもらいました。
後になって振り返ってみると、この時の株価は高い位置まできていました。
その株を買ってもらったあとも、数日間過熱を帯びて株価は上がっていき、Iさんは10万円ほどの利益が出ていました。
過熱した商いが最高潮に達していると思われたある日、物凄い株数の売りが入りました。
前日比でプラスであった株価が一瞬でマイナスに飛び、誰かが巨額の利益確定の売りに動いた感じがありました。
「やばい、たぶん本尊が売り抜けた!この相場は終わりだ、さがる!」
そう思いました。
大変な思いをして買ってもらった株がすぐに急降下
その後は、皆が皆、我先にと売り注文を出しているようで、すぐに売り気配になり値が付かず株価が下がっていきました。
Iさんの株はこの段階で売ることができれば30万円位のマイナスでした。
「買ってもらって、たったの数日で30万円のマイナス、、あんなに大変な思いをしてやっとの思いで株を買ってもらったのに、、」そう思い、Iさんに30万円の損切りをしてくださいとは到底言えませんでした。
その後の巨額損失を考えると、真っ先に売り注文を出していればこの30万円は小さな傷で済んでいましたが、当時はそのようにできませんでした。
その後は案の定、毎日なし崩し的に売られていき株価が大変な勢いで下がっていきました。
「もうダメだ、ババ抜きだ、、早く売らないと、、」本心ではそう思っていました。
この数日間は、朝会社に出社しクイック(パソコンに株価などの全ての投資情報がリアルタイムで映し出される情報端末)を立ち上げて株価を見ることがとても恐かったことを覚えています。
早く朝の株価の気配を確認したい気持ちと、見たくない気持ちが錯綜していました。
株価が下がり切った段階で売ってくださいと言い大激怒
「大変な思いをして買ってもらったばかりなのにすぐ売ってくれとは言い出しにくい」これが売ってくださいと言えなかった一番の理由でした。
本尊が売り抜けたと思われる後も、毎日状況報告のためにIさんに電話をしていました。
「大丈夫です、また上がります」気持ちとは裏腹に、ほんとはもうとっくにダメだと思ってるのに、こう言い続けていました。
Iさんは「うん、うん、そうか、わかった」と言ってくれていました。
決して「本当に大丈夫なのか」などとは言うことはなく、ただただ僕の言うことを受け入れてくれていました。
その後も株価は無慈悲に下がり続けました。
そしてその株の参加者がみんな撤退していき、商いが少なくなり注目されなくなった頃、
僕 「もう売ってください」
Iさん 「・・・・・・・」「どういうことだ?」
僕 「もう商いがなくなり再び上がることは難しいと思います・・」
Iさん 「・・・・・・・」
Iさん 「・・・・・・・」
Iさんの怒りが爆発した
「コノヤロー!何百万も損させやがって!ふざけんなよ!どうすんだよ!!」
僕 「申し訳ありません!!」
Iさん 「どうしてくれんだよ、上がるって言ってたじゃねーかよ!」
僕 「申し訳ありません!」
Iさん 「何てことしてくれやがるんだ、ふざけんじゃねーぞ!どうするんだよ!」
僕 「・・・・・・・」
Iさん 「全然話が違うじゃねーかよ!!」
僕 「大変申し訳ありません」
Iさん 「なんだよ、信じてたのによ~。」今までに聞いた事がない声色で声の力が弱まっていた。
僕 「申し訳ありません・・・」
Iさん 「安心してくださいと言ってたじゃねえかよ。」
僕 「はい、申し訳ありません。。」
何秒だっただろうか、1分経っていただろうか、少しの沈黙があった。
Iさん 「じゃあいいよ・・・売れよ・・」声の力が抜けていた。
僕 「申し訳ありません。。。」
改めて概算の損失額を伝えた。
僕「Iさん(銘柄)を(株数)成行の売りで、、、発注いたします、、」
無言で電話は切られた。。
僕も電話を置いた。。
そして伝票を書き時間を打刻してパソコンで発注し約定した。
もう一度Iさんに電話をして約定できたことを報告した。
その電話でIさんは無言でとって無言で切った。
その後、僕はしばらく放心状態だった。
すると横から管理者の課長から
「もうスッキリしただろ」
そう言われた。
正直そうだった。。
申し訳ない気持ちでいっぱいであったのと同時に、ここ数週間の心のわだかまりが取れ、スッキリした思いがあった。
この大変だった全過程は課長や先輩全員に見られていた。
特に課長からは何日も前から
「Iさんの株どうするんだ、、逃げるなよ、、」
と再三言われていた。
課長にも過去同じような経験があり、大変な修羅場を何度も潜り抜けてきて僕の気持ちをお見通しだったらしい。
僕がダメだと思って見てみぬフリをしようとしていたことも気付いていたとのことだった。
「課長はわかっていたのか、、わかっていてこの仕事を続けているのか、、」
この時、矛盾とわだかまり疑念みたいなものが生じた。
何回も謝りに行き許して頂いた
その直後、僕は課長に同行してもらいIさん宅へ謝りに行きました。全く口をきいてもらえず、目さえも合わせてもらえませんでした。
その後もあまりしつこくならない頻度で何回も謝りに行き、次第に話をして頂けるようになり、最終的には許して頂けました。
感謝の気持ちと申し訳ない気持ちが錯綜し気持ちの整理が難しかったことを覚えています。
その後のIさんとは、頻繁ではなかったですが株の取り引きをして頂いていました。
以上が証券会社で印象に残っている大変な出来事の1つでした。