証券会社で大量の札束を見た話

下半身不随の元上客、独身男性Oさんからの大口注文

Oさんは大変な株好きで、昔は大口の上客だったが体調を崩して入院し、連絡が取れなくなったということで、先輩から僕に担当者変更になった60代のお客様。

自分が担当になってから1年位連絡が取れなかったが、ある日電話が繋がった。

退院したようで早速、挨拶のため訪問することになった。

初顔合わせでは、車イス姿で下半身不随の大変そうなOさんの姿があった。

手はわずかに少し動かせる様だった。

お宅にお邪魔させて頂くと、台所やベッドが不随者用に工夫が施されていた。

話をするとやっぱり株好きで、入院中も毎日新聞で株価をチェックしていたとの事だった。

その日は挨拶と流行りの銘柄の話をして帰社した。

その後、Oさんと頻繁に電話でやりとりをし、取引までには至らなかったのですが株価や市況等を報告していた。

社内では、Oさんは担当者が変更になると、必ず1000万円級の新規資金の取引をするポリシーの持ち主だと有名だった。

ある日、東証一部の時価総額の大きい株を新規資金で買いたいという電話が入った。

「来た!大口注文だ!ラッキー!」そう思った。

その時は500万円程の株数の注文だったが、やはり元上客ということで簡単にこの位の金額を出して頂いて興奮した。

証券会社への入金は原則、銀行や郵便局等を通して振込だけでの受け付けですが、Oさんは下半身不随で入金に行けないので、僕が現金を受け取りに行くという事になった。

押し入れの奥に金庫が!さらに金庫の中には大量の札束

2度目のOさん宅の訪問で玄関の呼び鈴を鳴らした。

ガラガラッと横に開ける玄関扉を開けると、Oさんが玄関前で車イスにやっとこさ座っていた。

一度目の訪問では気付かなかったが玄関の仕組みが凄かった。

玄関扉にひもがくくり付けられていて、そのひもはOさんのベッド横まで壁を伝って繋がっていた。

玄関が開くとひもが引っ張られベッド横に置いてある鍋のような物が動き、それと何かがぶつかり音が鳴るという仕組みになっていた。

誰かが入ってきた時のセキュリティをこれで確立していたのだ。

この生命力に驚いた。

僕  「株のお金を預かりに参りました!」

Oさん「じゃあさ、この車イス向こうの部屋まで押してよ!」

僕がスイスイっとOさんのベッドがある部屋まで押すと「おおっ~~!」と低い声を発し、久しぶりの移動速度を味わったようだった。僕はその声で少し笑った。

Oさんは、予め500万円を用意していた。ポンとお金が用意されていたことからも元大口の上客であったことが伺えた。

Oさん 「ここにあるから数えてくれよ」

札勘は研修の時にやっただけで実戦での経験はなくとても緊張した。ぎこちない数え方で時間を掛けてでも間違いだけはしないように集中して数えた。

Oさん 「あんた慎重だね!」

慎重な僕を気に入ってくれたみたいだった。

Oさん 「特別にさ!良いもの見せてやるよ!」「そこの押し入れ開けて!」

僕   「ありがとうございます!かしこまりました。」

押し入れの中に更に2つの座椅子が何かを包む角度で詰め込まれていた。

僕   「座椅子が入ってますよ~」

Oさん 「その座椅子も出して!」

座椅子を出すと金庫が出てきた!

Oさん 「カギを開けるから体を降ろしてくれ」

僕は慎重に金庫前にOさんの身体を降ろした。

Oさん 「 あっち向いてて! 」

Oさんがダイヤル式のカギを開けた。

すると金庫の中に大量の一万円札の束が積まれている光景が飛び込んできた!

僕   「おおお!これすげえっすよ!!」

僕はテンションが急に上がった!

僕   「こんなのテレビでしか見たことないっすよ!」

Oさんも、釣られてテンションが上がっていた。「ヒッヒッヒ!」

僕   「ほんとすげえっすよ!」言葉がお客様用ではなくなってしまっていた。

僕の驚きに、Oさんは満足の様子だった。

僕   「記念に写真撮らせてくださいよ!」

Oさん 「冗談じゃねえよ!」素で答えられた。

人生で初めて札束の塊を見た。2億円以上は確実にあったと思う。

僕   「Oさん、すごいですね。株でこんなにお金儲けて。。」

Oさん 「そんなことありません、僕は株に夢中になりすぎたせいで、女にもフラれました、結婚も出来ませんでした、だから今こうして一人なんです。だからお金なんて必要なだけあればいいの!」

2億円の札束を見た直後のこの言葉、株で大成功してるのにOさんの身体の大変さを目の当たりにしてた僕には、訴求力は強すぎた。

「お金があっても幸せと思えない人は思えない」「現状で満足する事とお金の使い方も大切」

新しい考え方が生まれた。

これからまた上客になる可能性を秘めたOさんとの付き合いを大事にしていこう、そう思った。

Oさんは姉に1億円を渡し自分の面倒を見てくれと頼んだ

Oさん宅に電話をすると、Oさんのお姉さんが出ることがしばしばあった。

お姉さんはなぜか僕の事を嫌っている様子だった。

ある日普段通り電話を掛けると、ついにお姉さんの怒りが爆発した。

お姉さん「アンタ!あの人に株を勧めるんじゃないよ!!!」

僕   「ハイ!申し訳ありませんでした!」勧めただけで怒られるのか。。なんでだ。。?

お姉さん「アタシはあの人のウ〇コを処理しなきゃならないんだよ!部屋中あっちにポロポロ、こっちにポロポロと!アンタ達が勧めるからだよ!」

僕   「・・・・・・」訳が分からん。。取り敢えず凄いストレスがあるのは確かだ。。

後にお姉さんから聞いた事は、Oさんは体を動かせず便秘がちで、催した時にトイレに間に合わない事がよくあり、その処理をするお姉さんのストレスが相当なものだったとの事だった。

そういう事を全て面倒を見てもらうためにOさんは1億円という大金をお姉さんに渡したのだが、お姉さんはそれでも我慢が出来なくなったらしかった。

それにもかかわらずOさんは株の新聞を見ていたり、株のラジオを聞いていたりと、お姉さんにとっては株のイメージが最悪で僕にも当たり散らかして来たという事だった。

その後、やはり体調が万全ではないOさんは、昔の大口の上客だった頃のような取引はして頂けませんでした。そして僕は転勤になりOさんと接する機会は無くなりました。

Oさんは現在、株をやめて介護施設に入り手厚いサービスを受け、満足のいく生活を送っていると聞いています。

Oさん、お元気で。

とても勉強になりました、ありがとう。

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